自己愛憤怒ーー自己愛性パーソナリティ障害の怒り
とんでもなく人を怒らせてしまったことはありませんか?そこまでひどいことをしたわけではないのに,相手がとんでもなく怒っているというとき,ここでは,そんなときに一体何が起きているのかということを一緒に考えてみましょう。
自己愛憤怒とは
自己愛憤怒(じこあいふんぬ/Narcissistic rage)とは,自己愛性パーソナリティ障害を抱えた人々が自己愛を傷つけられたと感じた際に現わす激しい怒りを指します。この怒りは,その激しさや陰湿さ故に通常の感情を超えて,周囲の人々に強い恐怖感を与えることがあります。
自己愛性パーソナリティ障害の心の世界
どうしてこのような恐ろしい怒りになってしまうのか。簡単に言ってしまうと,自己愛性パーソナリティ障害の人たちはとてもプライドが高く,自分は絶対だ,自分は特別だ,偉いんだ!という心の状態で生活をしています。そして,彼らは自分のプライドが傷つかないように,相手の立場や相手の気持ちを推し量ることなく,常に自分中心の思考の世界の中で暮らしています。当然,その背後には自分はちっぽけで哀れな存在であるという無意識があるからなのですが,彼らはそれに気づいていません。その結果,自己愛が傷つけられると,強烈な自己愛憤怒が引き起こされるのです。
自己愛性パーソナリティ障害の人たちにとっての他者とは?
彼らにとって,自分以外の人たちは自分の優秀さを際立たせる黒子に過ぎません。彼らの自尊心の維持に貢献している間は大事にされ,珍重されます。しかし,(彼らの心のなかでは黒子の,下々の)私たちがその自尊心を傷つけるような言動を見せたり,優秀で偉い自分に対して何か意見をすることがあれば,「おまえは何を考えているんだ?ふざけているのか?頭おかしいんじゃないのか?」という状態になります。すると,私たちはとんでもない激しい怒り,自己愛憤怒を目にすることになるのです。
自己愛性パーソナリティ障害における地雷
十分に優秀で権力があり,地位のある役職についている人であっても,自己愛性パーソナリティ障害に属するようなパーソナリティを持ち合わせている人は大勢います。彼らの地雷,逆鱗に触れてしまうと,人目を憚らぬ激しい罵詈雑言を浴びせてきたり,呪いのような文面のメールが届いたり,恐ろしい脅しをかけられたり,人格そのものを明確に傷つけてきます。普段は冷静沈着,人の好い感じの人であっても誰が見てもパワハラ認定をされそうな言葉を投げつけてきたりもするのです。相手は傷ついているため相手の怒りも凄まじいのです。
自己愛憤怒への対処法,謝罪のリスク
最初に書きましたが,これらの特徴のひとつにこちらがやってしまったことと,相手の怒りのバランスが非常に悪いということが挙げられます。なので,こちらとしては恐怖を感じざるを得ません。
こんなとき,どう考えればよいのか。彼らの怒り方の特徴のひとつに,あなたが自分をどんなに傷つけたのかと言うことをしっかりと伝えてきて,こちらの罪悪感を煽って委縮させ,精神的に容赦なく追い詰めてくるということがあるので,こうした激しい怒りに遭うと「自分にも悪かったところがある,謝らなければならない」と思う人も多いでしょう。しかし,こういう人の場合,謝ったが最後,逆に権力を振りかざし,怒りの炎に油を注ぐようなことにもなりかねません。これは子供がお母さんに謝ったとたん,過去のことを次々と芋づる式に持ち出され,怒りが激しくなる状況と似ています。
自己愛憤怒に対する自己防衛
一度謝って,相手の怒りが収まらなかったら,その場,その状況から離れることをお勧めします。自己愛憤怒がひとたび発動されてしまえば,まともな話ができる状態ではありません。逃げられない相手,状況であれば,次に話し合いをするときには,第三者を交えるのも有効です。そして大事なことは自分を責めすぎないということです。
たとえば,あなたがガラスの花瓶を割ってしまったとしましょう。確かに花瓶を割ってしまったことについてはあなたに非があるかもしれません。しかし,その割れたガラスを片付けようとして,あなたが指を怪我したとしたら,それはあなたが悪いわけではありません。ガラスの破片を触れば,誰だって怪我をする可能性があります。手で拾うのは止めて,箒などの何か道具を使うなど,違う方法を考えましょう。そして,危ない破片からは離れるのが一番です。
最後に
自己愛性パーソナリティ障害を持つ人々の反応は,その人たちの内面的な問題から生じており,あなたが引き起こした怒りの度合いと実際の行動のバランスが大きく異なることが多いのです。あなたができるのは,自分自身を守るために冷静に行動し,ひとりで抱え込まず,誰からの手を借りて危険な状況からできるだけ早く離れ,安全な方法で対応することです。最終的には,自分の安全と精神的な健康を最優先に考えることが重要です。