解離性障害と発達障害

解離性障害・解離とは

解離とは,精神医学的には意識や記憶などに関する感覚をまとめる能力が一時的に失われた状態のことを言います。
そして,解離という状態が生じていると意識・記憶・思考・感情・知覚・行動・身体イメージや身体感覚などがばらばらになっているように,繋がっていないように,纏まっていないように感じられたりします。

特に,自分の身体と心がうまくまとまっていないような感じ,そして記憶もひとまとまりにはなっておらず,一日の中でもところどころ記憶が欠けていたり,まるまる一日の記憶が抜け落ちていたり,自分が自分であるという感覚もいまひとつしっくりとこない,そんな感じで体験されているのではないかと思います。

意識・記憶・思考,心と身体をまとめておく力

精神分析の理論では,「生の本能」として,生来的に人には,自分がひとつにまとまっていこうとする力,自分をひとまとまりに束ねておくような力,統合する力といったものが備わっていると考えられています。
また,それと同時に「死の本能」として,解体に向かう力,ばらばらになったり拡散していく力といった統合とは逆の非統合に向かう力というものも備わっています。
そして,心が健康な状態にあれば,生の本能の力のほうが死の本能の力を上回っているので,人は「ひとりのまとまった私」として,心と身体をひとまとまりにして,意識や記憶,思考もそこまでばらばらになることもなく,暮らしていけるものです。

心と身体をまとめておく力が弱まってしまう状況

しかし,心身に過度なストレスがかかってしまうとそのまとまりが失われてしまうことがあります。そうなると最初に書いたような状態が現れてきます。たとえば,過度なストレスというのは,大きな事故や事件に遭遇してしまうといった一時的だけれど,破壊的な出来事によるストレスもあれば,言いたいことを自由に言えないような,または言わせてもらえないような家庭環境や職場環境,学校生活が一定期間続いてしまうような,低温火傷のようにじわじわと心にマイナスの負荷をかけてくるような状況下でも起こりうるのです。

解離症状の背景にある発達障害

そして,近年,数多くの10代後半から20代にかけての若者たちに,この解離症状が増えているように感じます。さらに,私自身,臨床現場において解離症状を呈する若者たちのベースに発達障害があるという事例を多く経験しています。

元来,発達障害の方々は物事を柔軟に多面的に捉えることが苦手で,外から与えられる苦痛をろ過して和らげて自分に取り込むといった心の働きが弱く,外からの刺激をまともに食らってしまいがちです。そして,被害的になったり,自責的になったり,反対に他責的になったりしやすい傾向があります。しかし,これも一定量を超えてしまうと,キャパオーバーになってしまいます。
おそらく,発達障害の方々の中には器質的に生まれ持った能力として,自分をひとまとまりに保っておく力が若干弱めな方がおられるのだと思います。
それもあって,外側から一時的に大きな負荷,または継続的に中程度の負荷がかかったときに,心を守る一つの方法というのが,意識や記憶,思考といったものをばらばらにしてしまうといった解離症状を呈してしまうことになるのではないかと思います。

本来,合体ロボはまとまっていてこそ,個々のパワー以上のパワーを発揮するものですが,それがばらばらになってしまっては,本来の力も出なくなってしまうわけです。そして,バラバラになった心では外からの刺激にはほとんど適応できないというわけです。

肉を切らせて骨を断つ戦略としての解離症状

ある意味では心が壊れて最悪な状態(肉体的死や心の崩壊)を回避するために,解離状態によって心や身体を守っているとも言えます。つまり,「肉を切らせて骨を断つ(こちらも痛手を受けるけれども,それ以上に相手にダメージを与えたりメリットが多いことを指す)」ような戦法ではあるのですが,肉を切られるのも相当にダメージはあるのです。

解離症状への対応

解離症状は様々な精神疾患との鑑別が難しいこともあり,放っておいて良いことはないので,精神科の受診をお勧めします。
そして薬物療法を併用しながらの心理療法が有効だろうと考えます。
というのも,「話をすること」「考えること」をベースとした精神分析的心理療法は,まず意識を自分の内側に持ってきて,自分の思っていることを言語化するという点において,自分が「ひとりのまとまった人間として機能する」ことを非常に効率よく助けるものだと思います。
人と話すと落ち着いてくるというのは,単純に共感を得られることで,孤独感が癒されることで楽になるだけではなく,思いを言語化することで心や頭が整理されてくることによるものです。そして,精神分析的心理療法はばらばらになっている意識や記憶,感覚,心と身体といったものをまとめ上げておく,一つに束ねておくということに有効な手段だと思います。