どうやって無意識の世界を理解するの?

思い出したくないことは心の奥底,または外へ

 フロイトが始めた大人の精神分析では,「自由連想法」によって,そしてお子さんの場合には,メラニー・クラインが創案したプレイテクニック(プレイセラピー)と言われる技法を用いて,クライエントはセラピスト共に心の状態を理解していきます。
 ところが,話している本人も,遊んでいる子ども自身も自分の心の内をよく理解しているわけではありません。人は,思い出すのも辛いことや都合の悪い事実は無意識の中に抑圧したり,心の外に追いやったりして,なかったことになっていたりします。
 たとえば,本当は自分が嫌っている相手のことを,相手が自分を嫌っているのだと勘違いしたりもしますし,行きたくない会議の日程はすっかり忘れてしまったりすることもあります。また,人は多かれ少なかれ,「いい人」でいたいので,生々しい欲望や憎悪,嫉妬といった感情には目を背けたいものです。あらゆる手段を使って,心を操作し,人は自分の気持ちや欲望によって自らが傷つくことから自分を守ろうとするものなのです。そうなると,セラピストもただ単純にクライエントの自由連想に耳を傾け,遊びを観察しているだけで,その心の世界を知ることは不可能です。

精神分析の知識と「転移」現象

 ではセラピストはどうやって大人の自由連想や子どものプレイから,その方の無意識や心の世界を理解するのでしょうか。精神分析は人の心のメカニズ働きに関する学問でもありますから,現在に至るまで,多くの精神分析家たちが人の心を知る上で役に立つ知見が沢山蓄積されています。クラインも,人は誕生の瞬間から沢山の空想を抱いており,その空想が人々の性格や行動,そして,生き方にどんな風に影響を与えているかといったメカニズムもたくさん説明しています。精神分析的心理療法を行なうセラピストは,こうした数多くの研究者たちによって蓄積された心に関する膨大な知見を学び,訓練を受けています。セラピストはこうした知識を基にして,目の前の相談者の話を聞き,プレイを観察し,「転移」という現象を分析しながら,その人の心を理解していくのです。

※転移とは,現在の対人関係のひな型となっている小さい頃の対人関係のパターンが面接室に持ち込まれる現象を言います。

逆転移の利用

セラピストが相談者に感じる感情や思いのことを逆転移と呼びます。逆転移には,セラピスト自身の幼少期の経験が反映されているようなパーソナルなものから,相談者から投げ込まれたものまで,さまざまな水準のものがあります。ここでは,後者,相談者から投げ込まれた感情や思いの話をします。
セラピストは自分の心や五感を使って相談者の心を理解していきます。なので,相談者が感じたくない,まだ感じるには準備が整っていない場合,その感情はセラピストの中に「投影」という機能を使って投げ込まれます。クライエントは淡々と話すのに,セラピストがひとり悲しくそれを聞くということがあります。そんなとき,まだ,相談者にはその悲しみを受け止める心の準備が整っていないのです。そんな時にはセラピストは,時にはその感情を相談者に伝えます,時にはしばらくはその感情を相談者の心の理解に役立てるだけに使い,セラピスト自身の心の中にその気持ちをとどめておき,時が来たら,相談者がそれについて考えることのできる準備が整ったときに,それを相談者に返していきます。こんな風にして,逆転移というものも利用して,セラピストは相談者の無意識の世界を理解します。