AI相談をどう使うか――精神分析的心理療法の視点から(後編)
前回は,AI相談の優しさに救われる人が増えている一方で,その優しさだけで終わってしまうことの危険性について考えました。
今回は,精神分析的心理療法の中で具体的にどのようにバランスが取られているのか,そしてAIにはなぜそれが難しいのかについて,もう少し掘り下げてみたいと思います。
精神分析的心理療法では
精神分析的心理療法では,セラピストは常に「見立て」を行っています。
「見立て」とは,クライエントの心理的な状態を多角的に理解し,どのような支援が適切かを判断するプロセスです。
具体的には,
- 心理的な力動(心の中でどんな力が働いているか),
- 防衛機制(どのような方法で自分を守っているか),
- 対人関係のパターン(過去の重要な人との関係が今どう影響しているか)
など,パーソナリティの構造を多角的に理解していきます
そして,この見立てをもとに,セラピストは相手の心の状態を吟味しながら,今この瞬間に「どの程度の真実を受け入れられるか」「どんな問いかけをするか」「どこまで踏み込むか」を,タイミングやその深さを測りながら慎重に判断しています。
たとえば,「自分は被害者だ」という捉え方に固まっているとき,
セラピストは共感しながらも,「あなたにできることは何もなかったのだろうか」と問うことがあります。
「自分が悪い」という自責に囚われているとき,
セラピストは受け止めながらも,「本当に全部あなたの責任だろうか」と問い返すことがあります。
こうした問いは,見立てに基づいて,タイミングと関係性の中で慎重に選ばれます。
その人が今,この問いを受け取れるだろうか。
安心して,自分を疑ってみることができるだろうか
――セラピストは,その見立てをしながら,受け止めと問いかけの塩梅を調整していきます。
AI相談の限界
現時点(2026年春)のAI相談では,まだこうした見立てはできません。
その人の心理的な力動や防衛機制,対人関係のパターンといった複雑な理解をすることも,
「この人は今,少し問われても大丈夫だろうか」という瞬間的な判断をすることも,どちらも難しいのです。
また,言葉にならないもやもや,何が引っかかっているのか自分でもわからない感覚。
そういった曖昧なものを扱うことも,AIは苦手です。はっきり言語化された悩みには答えられても,言葉になる前の違和感や戸惑いには,なかなか触れられません。
だからこそ,安全な方向,つまり「受け止めるだけ」に偏りやすいのです。
そして,AIとのやりとりだけで完結してしまうと,閉鎖システムの中に安住し,自分の中だけで考えが回り始め,外の世界との接点が失われてしまいます。
AIにとっても,自分にとっても筋が通っているように思える。
けれども,他者や社会の現実とは少しずつかけ離れていってしまうのです。
その結果,
自分に都合のいい解釈ばかりが強化されてしまったり,
被害的な見方がますます固まってしまったり,
本当は向き合いたくないことから目を逸らし続けることができてしまったりするのです。
真実に近づくために
人は,ただ受け入れられるだけでは変わりません。
少し居心地が悪くても,自分の見方を問い直す瞬間が必要です。
精神分析的心理療法では,その過程を時間をかけて支えます。
受け止めながら,少しずつ問いかける。共感しながら,答えを急がない。
そのバランスの中で,
人は自分の見方を広げ,
これまでとは違う捉え方に触れること,
向き合いたくないものと向き合い,自分にとっての真実を少しずつ見つけていくことができます。
癒されることと,真実に近づくことは,必ずしも同じではありません。
むしろ,真実に近づくことは,一時的には辛さを伴うこともあります。
けれども,その先にあるのは,本当の意味での自由です。
AI相談を使うときに,意識しておきたいこと
AI相談は,こんな点で役に立ちます。
- 気持ちを整理する
- 言葉にする練習をする
- 一人で抱え込まない
「今日は厳しいことを言われたくない,ただ癒されたい」
そんな日もあります。それは,それでいいのだと思います。
ただ,AIは基本的に共感的・支持的な回答をする設計です。
もし,バランスの取れた助言がほしいなら,こんなふうに伝えてみるのも一つの方法です。
私の相談に対して,共感だけでなく厳しい視点も含めて回答してください。
私にも改善点がある場合は,率直に指摘してください。
(この記事は2026年3月時点のデフォルト設定によるAIについてのものです。
たとえば,Chat GPTでは現在,モードを選択してフレンドリー,率直,シニカルなどのスタイルを選べるようです。)
こうしたプロンプトで,AIからも違った角度の助言が得られることがあります。
それでも,AIには「見立て」ができません。
あなたが今,どんな問いを受け取れるのか。
―—そういった判断は,人との関わりの中でしか生まれません。
おわりに
AIは,とても優しく,話をよく聞いてくれます。けれども,優しさだけでは届かない領域があります。
人が本当に変わっていくためには,受け止められることと,問いを保ち続けることの両方が必要です。
ただ私は,本当に大事なことについて重要なのは,真実に近づいていくことだと考えています。
AI相談を使うときには,その優しさを受け取りながらも,「ここから先は,人と一緒に考えたほうがいいかもしれない」そんなふうに,次の一歩を意識できるといいのではないでしょうか。
優しさは,確かに人を支えます。
けれども,人を本当に自由にするのは,真実に近づいていくことです。それは精神分析がとても大切に考えているものです。
ただ,人生の道のりは時にとても苦しいものです。どうか一人で抱えすぎないでほしいと思います。
桜心理カウンセリング恵比寿では,精神分析的心理療法を専門とするカウンセリングを提供しています。
一人で考えることに限界を感じていらっしゃる方のお話を丁寧に伺い,自分らしく強く穏やかに生きていくためのお手伝いをさせていただきます。
精神分析的心理療法について不安や疑問に思うことは「精神分析的心理療法とはFAQ」にまとめています。


