心を動かし続けること|感じることで心を再起動
最近,「なんだか気持ちが動かない」「何をしても楽しくない」と感じることはありませんか?「本当は楽しいはずなのに,心が反応してくれない」――そんなふうに感じるとき,もしかしたら心が固まってしまっているのかもしれません。
今日は「心を動かすこと」の大切さについて書いてみようと思います。日々の生活の中で,私たちの心がどのように機能し,どうすれば健康に保てるのかを一緒に考えていきましょう。
心が動かなくなるとき
精神分析の創始者であるフロイトは,抑圧された感情が精神的な症状を引き起こすことを指摘しました。人は辛い思いや理不尽な状況に長く晒されると,その苦痛をそのまま感じ続けることが難しくなってしまいます。そして,心は自分を守ろうとする防衛反応として,その辛さや悲しみ,寂しさといったネガティブな感情を無意識のうちに抑え込もうとするようになります。こうして感情を感じないようにすることで,心の負担を軽減しようとするのです。
しかし,この抑圧が続くと,心は次第に動かなくなってしまいます。辛さや悲しみを感じないようにするために,心が自らを麻痺させてしまうのです。これは,フロイトが指摘した「抑圧」による影響の一つとも言えるでしょう。
感情を抑え込むことで一時的には楽になったように感じても,抑圧された感情は心の奥深くに蓄積され,やがて無気力感や不安,身体症状として現れることがあります。心が動かなくなってしまうのは,自分を守るための防衛反応でありながら,同時に心のバランスを崩してしまう原因にもなり得るのです。
心は筋肉と同じで,動かさないと固まってしまいます。そして,心がいったん固まってしまうと,喜びや楽しみも感じづらくなります。感情の一部を遮断すると,すべての感情が影響を受けてしまうのです。これを心理学では「感情の平板化」や「感情の麻痺」と呼ぶこともあります。
心が固まるサイン
心が固まり始めているサインには以下のようなものがあります。
- 以前は楽しめていたことに興味を失う
- 感情の起伏が少なくなる
- 「ただ日々をこなしている」感覚がある
- 人との深い繋がりを感じにくくなる
- 身体的な疲労感や無気力感がある
- 決断が難しくなる
- 創造性や好奇心の低下
これらのサインに心当たりがある方は,心が自己防衛モードに入っているかもしれません。
心の再起動
では,どうやって心を動かしてあげればよいのでしょうか?実は,日常の小さな瞬間から始められることがたくさんあります。
1. 感覚を言語化する
好きなものを食べて「美味しいなあ」,お花を見て「きれいだな」,今日暑いなあ,寒いなあって思ったら,それを意識的に言葉にして口に出してみましょう。感覚をちゃんと言語化することで,自分の感情に気づき,認識できるようになります。
具体的な実践方法:
- 食事の際は,味わいながら「甘い」「酸っぱい」「辛い」など,具体的な言葉で表現してみる
- 季節の変化を意識して「今日は空が特に青いな」「風が心地よいかも」と声に出してみる
- その日感じたことを書き留めてみる
- 「今,何を感じているか」を一日に数回,自分に問いかける時間を作ってみる
2. 気持ちを誰かと共有する
映画を見てスカッとしたり,涙を流してみたり,その感想を友達と話し合うなんていうのもいい方法です。感情を他者と共有することで,感情がより鮮明になり,心が動きやすくなります。
感情の共有がもたらす効果:
- 自分の感情を言葉にすることで,より明確に理解できる
- 他者の反応によって,自分の感情が確認され,強化される
- 共感することで,人との繋がりを感じ,孤独感が和らぐ
- 異なる視点からの意見を聞くことで,新たな感情体験が生まれる
3. 小さな喜びを見つける
日常の中の小さな幸せに目を向けてみましょう。新しい季節の訪れ,窓から見える景色の変化,おいしいコーヒーの香り…これらすべてが心を動かすきっかけになります。
実践のためのアイデア:
- 「感謝日記」をつけて,毎日3つの感謝できることを書き留める
- 「気になったこと」を毎日書き出してみるよう心がける
- 五感を意識的に使う時間を作る(特定の香りを楽しむ,さまざまな質感に触れるなど)
- 自然の中で過ごす時間を増やす(自然環境は感情を呼び覚ます力があります)
4. 創造的な活動に取り組む
絵を描く,音楽を聴く,踊る,歌を歌う,書くなどの創造的な活動は,心を動かす素晴らしい方法です。これらの活動は,言葉にしにくい感情を表現する別の手段を提供してくれます。
おすすめの創造的活動:
- 形や色で自分の感情を表現する
- 音楽を聴いたり,演奏したりして感情と繋がる
- 詩や短い物語を書くことで,言葉で自分の内面を探る
- 身体を動かして,たくさん汗をかいて,感情を解放する
5. 身体と心のつながりを意識する
身体と心は密接につながっています。身体を動かすことで,心も動き出すことがあります。
効果的な実践方法:
- 呼吸に意識を向ける瞑想(1日5分から始める)
- ヨガやストレッチで身体の緊張を解放する
- ウォーキングなどの有酸素運動で気分を高める
- 身体の感覚に意識を向けるボディスキャン瞑想を行う
脳科学研究から見た心を動かすことの大切さ
感情を感じることの重要性は,単なる心理額的な話だけではなく,科学的にも裏付けられています。脳科学研究によると,感情を適切に処理し表現することは,脳の特定領域(特に扁桃体や前頭前皮質)の健康的な機能と関連しています。
感情を抑制し続けると,ストレスホルモンのコルチゾールのレベルが上昇し,免疫系の機能低下や様々な健康問題につながる可能性があります。一方,ポジティブな感情を意識的に培うことで,セロトニンやドーパミンなどの「幸せホルモン」の分泌が促進され,全体的な健康状態の改善にもつながります。
専門家のサポートを受ける
一人で動かすことが難しいところまで行ってしまっていたら,カウンセリングも一つの選択肢です。専門家との対話を通じて,安全な環境で少しずつ感情を取り戻していくことができます。
カウンセリングで期待できること
- 安全な環境で感情を探求する機会
- 感情の遮断が起きた原因を理解するサポート
- 新しい感情体験の方法を学ぶ
- 自己理解と自己受容の促進
- トラウマや過去の経験を統合するプロセスのサポート
どんな時に専門家に相談すべきか
以下のような状況では,専門家のサポートを検討することをお勧めします。
- 長期間(2週間以上)続く気分の落ち込みや不安
- 日常生活や仕事,人間関係に支障が出ている
- 感情の麻痺が長く続いている
- 睡眠や食欲の大きな変化がある
- 自傷行為や自殺念慮がある(この場合は緊急に相談を)
さいごに
感情を感じることは,時に勇気のいることかもしれません。特にネガティブな感情は避けたくなるものです。しかし,すべての感情を感じることで,私たちの心は健康に保たれます。今日から少しずつ,自分の感情に耳を傾け,心を動かす練習をしてみませんか?どんなに小さな一歩でも,続けることで大きな変化につながります。桜心理カウンセリング恵比寿では,あなたの心の健康を心から応援しています。
次回は「心を動かすことの大切さ |精神分析の視点から」です。