「自分らしさ」と「人間関係」は両立できる|ウィニコットに学ぶ心のバランス術
「自分らしくありたいけれど,嫌われたくない」「本音を大事にしたいけれど,空気も読みたい」そんな揺れを,あなたも感じたことがあるかもしれません。 どちらも大切にしたいけれど…自分らしく生きることと人間関係を両立させる方法について,精神分析家ウィニコットの理論をもとに解説。自分を押し殺さず,周囲との関係も大切にするバランスの取り方とは?
好き勝手に生きること=自由,ではない
「自由に生きる」と聞くと,好きなことをして,言いたいことを言って,周りの目を気にせずに生きる…そんなイメージを抱く人もいるかもしれません。でも,本当の自由って,どういうことをいうのでしょうか。
たとえば,「自分の感じていることを,まず自分自身が正直に受け取ってあげること」それは,自分に対して嘘をつかないという意味で,とても自由なことです。つまり,何を思ったとしても,感じたとしてもそれは自由だと思うのです。でも同時に,「その感じたことをどう表現するか」は,相手や関係性によって選ばなければなりません,でも選ぶことが「できる」とも言えます。これは,相手に合わせるための「我慢」とは違って,自分で選べるという点で,やはり自由なんです。
英国の精神分析家ドナルド・ウィニコットは「本当の自己(True Self)」と「偽りの自己(False Self)」という概念を提唱しました。彼によれば,
「健全な偽りの自己は,社会的礼儀作法と妥協の能力を表すものであり,個人が社会の中で生きるために必要なものである」
つまり,自分の感情を認識しつつも,それをどう表現するかを社会状況に合わせて調整する能力は,実は健全な心の発達の証なのです。
精神分析の視点から見る「関係のなかの自己」
精神分析では,「自己」というのはもともと関係のなかで形作られるものだと考えます。つまり,「私は私」という孤立した存在ではなく,他者との関係のなかで揺れ動きながらも,少しずつ輪郭ができていくものです。
たとえば,ウィニコットは,特に母子関係の観察から,人間の自己感覚は完全に独立したものではなく,重要な他者との関係性の中で育まれていくことを強調しました。彼の理論によれば,私たちの「本当の自分」は,安全な関係性の中でこそ表現できるものなのです。
このように考えると,ウィニコットの視点から見ると,「自分らしさ」と「関係性」は対立するものではなく,互いに支え合うものだと言えます。健全な自己感覚(本当の自分らしさ)は,最初は安全で信頼できる関係性の中で育まれるのです。特に彼は母子関係の研究から,子どもが「本当の自己」を発達させるためには,「ほどよい母親」による安全な環境と応答性のある関わりが必要だと主張しました。
また,ウィニコットの「可能性空間」という概念は,自己と他者の間にある創造的な「遊びの場」を意味し,ここで人は自分らしさを保ちながらも他者と関わることができるとしています。「健全な偽りの自己」の概念も重要です。これは自分の感情や欲求を完全に押し殺すのではなく,社会的な文脈に合わせて表現を調整する能力を意味します。この能力があることで,私たちは「真の自己」を守りながらも,他者との関係を維持できるのです。
つまりウィニコットの理論では,自分らしさは他者との関係を通じて形成され,健全な関係性は互いの自分らしさを認め合うことで成り立つという,相互に支え合う関係として描かれています。一方を犠牲にして他方を得るという二者択一の関係ではないのです。
自分を見失わずに,関係に向き合うために
- 自分の感情を丁寧に感じること 無理に「いい人」でいようとせず,「いま,自分はどんな気持ち?」と立ち止まってみること。これはウィニコットが重視した「自己感覚」を育む第一歩です。
- 自分と相手の間に”間”をつくること 感情に巻き込まれそうなときは,すぐに反応するのではなく,一拍おいてみる。それだけで関係の空気が変わることもあります。ウィニコットはこれを「移行空間(transitional space)」と呼び,自己と他者の間の創造的な「遊びの場」として重視しました。この空間があることで,私たちは自分を失わずに他者と関わることができるのです。
- 完璧を目指さないこと すべての人と「うまくやる」ことはできません。だからこそ,「少しずつ,自分のままで関係を築いていく」くらいの気持ちでいいのです。ウィニコットは「ほどよい母親(good-enough mother)」という概念を提唱しましたが,これは人間関係全般にも適用できます。
「完璧な人間関係を求めるのではなく,十分に良い関係(good enough relationship)を目指すことが,むしろ本物の関係を築く道である」
誰かとの関係に悩むとき,それは「もっと自分を大切にしたい」という心の声かもしれません。
自分を押し殺すのでも,周囲を切り捨てるのでもない。そのあいだの,揺れ動くあなたのあり方を,大切にしていけますように。
まとめ:バランスは一瞬一瞬の選択の中に
ウィニコットの視点から学べることは,「自分らしさ」と「関係性」は対立するものではなく,むしろ互いに支え合うものだということです。健全な「自分らしさ」は,安心できる関係の中で育まれ,真の関係性は,自分を偽らない誠実さから生まれるのです。
ウィニコットの理論では,自分らしさは他者との関係を通じて形成され,健全な関係性は互いの自分らしさを認め合うことで成り立つという,相互に支え合う関係として描かれています。一方を犠牲にして他方を得るという二者択一の関係ではないのです。
日々の生活の中で,時には自分の気持ちを優先し,時には関係性を大切にする—そんな一瞬一瞬の選択の積み重ねが,あなたらしいバランスを作っていくのかもしれません。
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