夢の働き

私たちが日々の不安や心配事に曝されながらもどうにか健康を保ちながら生きていくのに夢は大きな役割を果たしています。今回はそんな夢の働きについてご紹介します。

悲しみを癒し,安らぎと喜びをもたらす

人にとって死別や離婚は大きな悲しみをもたらしますが,その悲しみを癒すにも夢は大きな役割を果たします。Scott Wright et al. (2014)の研究では,近親者を無くした300人を対象に調査したところ,58%の人が1回以上,亡くなった人の夢を見たと報告し,楽しい夢とは限らないものの,夢によって安らぎを感じたと報告しました。

また,Rosalind Cartwright(2001)が,離婚経験者に行った実験では,うつ状態の人の1/3が別れた相手のことを夢に見たと報告しましたが,その夢の内容の良し悪しにかかわらず,この人達は一年後には心身共にうつの状態の回復傾向が見られ,離婚の夢は別離を乗り越える手助けとなったことを報告しています。

逆境に立ち向かうためのシミュレーション

大事な約束に遅刻する夢や試験に落ちる夢は世界でも多くの人が見る夢ですが,実際に夢の中で辛い経験をしておけば,現実にそれを体験したときのショックが和らぐと言われています。実際,医者を目指す学生に医学学校の入学試験の日に連絡を取り,試験に関する悪夢(会場に行く途中で道に迷った,寝過ごして試験に行けなかった,試験問題が読めなかったなど)を見た学生たちの方が,そうした夢を見ていない学生と比較して試験の成績が良かったという結果も出ています(Isabelle Arnulf et al., 2014)。研究者たちは悲観的な予測をした学生は,そのシミュレーションと比較して,現実がそれほど悲劇的な状態ではないという落差にほっとして,パフォーマンスを最大化できたのではないかと考察しています。

新しいスキルを上達させる

最近の研究では,新しいスキルを夢に見ることで,そのスキルの定着率が良くなったり,パフォーマンスが上がったりすることが明らかになっています。

Stickgold(2000)の研究ではすでに50時間以上テトリスをやったことのある人と,一度もテトリスをやったことのない初心者に3日間位置に7時間ずつテトリスをやってもらい,被験者たちが眠り始めてから1時間経ったところで被験者を起こし,何の夢を見ていたかを聞きました。すると3/5の被験者が昼間見ていたテトリスと同じようにブロックが落ちてくる夢を見たと報告したのです。

続けてStickgoldは似たような実験を,海馬に損傷があって記憶を保てない健忘症の人たちにも試してみた。毎回,実験者は毎日自己紹介をして,テトリスのルールを説明して実験に参加してもらったところ,健忘症の人はテトリスの記憶を維持することはできなかったにもかかわらず,ブロックが浮いている夢を見たり,夢の中でブロックを一列に揃えようとしたりしていたのです。しかも,三日のうちに彼らのスコアは上昇していたのでした。健忘症の人は記憶にアクセスできず,取り出せないものの,間違いなく記憶自体は保持されることも分かったのです。

またDe Koninck(1996)たちは,上下さかさまに見える眼鏡をかけて過ごした学生たちの半数は,一日中眼鏡をかけて過ごした日の夜,人や物がさかさまになって出てくる夢を見て,同時にレム睡眠の時間が長くなった,特に急激にレム睡眠の時間が長くなった学生は,さかさまの世界に順応し,その眼鏡をかけたままスムーズに歩き,文章を読み,カードを分類し,テキストのコピーまでできるようになっていたとのこと。何か新しいことに取り組むと,夢がそのスキルの上達を促進するのではないかと言われています。

最後に

いかがですか,夢にはいろいろな役割があって私たちの生活にとってプラスになるものだということが少し伝わったでしょうか。すべてがプラスな効果を与えるものでもなく,繰り返される悪夢などは健康を妨げることもありますが,夢の持つ意味について考えてみるのも心のなかの状態を知ることに大いに役立ちそうです。

おそらく精神分析の理論をベースにカウンセリングを行っているセラピストはあなたの夢に関心を持って,一緒にその意味を考えてくれると思います。一人で難しければ,手伝ってもらうのもひとつかもしれませんね。