建設的な思考法②:クラインの視点から考える思考の落とし穴から抜け出すための方法

前回の記事では精神分析家のビオンの視点から,ぐるぐる🌀思考や思考の落とし穴から抜け出すための方法をご紹介しました。今回は精神分析学の対象関係論,特にメラニー・クラインの理論から考えてみたいと思います。

ぐるぐる🌀思考の本質:思考の偏りと視野の狭さ

前回,前々回のブログでもお伝えしたように,「考えすぎ」と言われる人たちは,本当に考え「過ぎ」なのでしょうか。あれこれ考えて不安を雪だるま式に大きくしてしまう人は,単に考える量が多いわけではなく,問題は「考える方向性」にあります。つまり,思考がネガティブな方向に偏りすぎていたり,まるで落とし穴から上を見上げているように視野が狭くなっていることが真の課題なのです。

対象関係論から学ぶ思考の偏り

精神分析の対象関係論では,私たちは幼少期に形成された内的対象(親や重要な他者の内在化されたイメージ)に基づいて,現在の状況を捉える傾向があると説明します。このレンズを通して見ると,「考えすぎ」と思われる人の多くは,実は批判的な内的対象(心の中の母親)の声に支配されているのかもしれません。

思考の偏りを修正するためのステップ

内的対象の認識

  • 「私はこの状況を誰の目を通して見ているのか?」と自問してみましょう
  • 「心の中のお母さん」が厳しすぎるのではないか,自分にとって意地悪なので?と考えてみる

思考の拡張(多面的視点の獲得)

  • 状況の長所・短所をリストアップする
  • 「もし~だったら?」という逆方向の仮説思考を試みる
  • 5年後にこの問題はどう見えるかを想像する
  • もし友達が同じことを相談してきたら,どう答えるかを考えてみる

現実検討

  • 「本当にそうなるのか?」「証拠はあるのか?」「もしそうだとして,実際何ができるのか(何もできないよね)」と自分に問いかける

メラニー・クラインの視点:妄想-分裂態勢と抑うつ態勢

妄想-分裂態勢

メラニー・クラインによれば,生まれたばかりの赤ん坊は二つの極端な世界観を行き来しています。

  • おっぱいを飲んでおなかが満たされているときには,快を感じ,すべてが自分の思い通りになるといった万能的な世界に住んでいると感じる
  • 空腹であったり,不快な状態にあるときには,世界はひどいところで,自分は攻撃されているといった被害的・迫害的世界に住んでいる

そして,クラインは,この二つの極端な世界観を行き来する状態を「妄想-分裂態勢」(白黒思考や極端な見方をする状態)と呼びました。

抑うつ態勢

生後半年が経過するころ,赤ん坊は徐々に世界には快適な部分も不快な部分も両方あるということを理解するようになります。これがより成熟した「抑うつ態勢」(物事の良い面と悪い面を統合できる状態)です。この段階で,物事の多面的側面を見られるようになり,より柔軟な思考が可能になります。

クラインの理論によれば,大人になっても私たちの心はこの二つの態勢を行き来しています。ネガティブなことばかり考えてしまう「ぐるぐる🌀思考」に陥っているときは,妄想-分裂態勢の心の状態になっているのです。そのため,妄想-分裂態勢にある心を抑うつ態勢に移行させることが重要です。

抑うつ態勢への移行を促すプラクティス

両価性の受容

  • 状況や人に良い面と悪い面の両方があることを認める

修復と統合

  • 分断された見方を統合し,より全体的な視点を持つ

象徴化能力の向上

  • 具体的思考から象徴的思考へと発展させる

さいごに

ぐるぐる🌀思考に陥っているとき,私たちはつい白黒はっきりさせようとしたり,物事の悪い面ばかりに目がいったりしがちです。しかし,世界は本来もっと曖昧で多面的なものです。心の中の「厳しい声」に気づき,視野を広げることができれば,少しずつ思考のバランスを取り戻せるかもしれません。

焦らず,自分の心の動きを観察しながら,柔軟な視点を育てていきましょう。
同時に,前回ご紹介したビオンの「抱える能力」や「負の能力」の強化も,建設的な思考へのシフトに役立ちます。(建設的な思考法①:ビオンの視点から考える思考の落とし穴から抜け出すための方法

穴から出てきた男の子