建設的な思考法①:ビオンの視点から考える思考の落とし穴から抜け出すための方法
前回のブログでは,「考えすぎ」と言われる人たちの問題は,実は考える量ではなく,思考の偏りや視野の狭さにあると指摘しました。今回は,その続きとして,どのように建設的な思考法を身につけるかについて,精神分析の対象関係論の知見を交えながら掘り下げていきたいと思います。
思考のループから抜け出すために:「容器-内容物」モデル
精神分析家のウィルフレッド・ビオンは,思考プロセスを「容器-内容物」(コンテイナー-コンテインド)という概念で説明しました。これは,私たちの心がどのように経験を処理し,意味づけるかを理解するのに役立ちます。
私たちが同じ思考をぐるぐると繰り返してしまう状態は,ビオンの言葉で言えば,容器(心)が内容物(不安や恐れ)を適切に処理できていない状態と言えるでしょう。容器が機能していないと,内容物はただ渦を巻くだけで,変容することがありません。
✅建設的思考への第一歩:「思考の容器」を強化する
建設的思考の第一歩は,この「思考の容器」を強化することです。
これは具体的には
- マインドフルネスの実践: 自分の思考を観察し,それに飲み込まれないようにする練習
- 内省的な態度: 「なぜ私はこのように考えるのか」と,一歩引いて自分の思考パターンを見つめる姿勢
- 感情の受容: 不安や恐れといった感情を良しとして,まずは受け入れること
「ぐるぐる思考🌀」の本質は「α機能」の不全,「負の能力」の不足
ビオンは心的機能を理解するために,「α機能」と「β要素」という概念を提唱しました。
- β要素:まだ処理されていない生の感覚的・情緒的経験のことで,意味を持たない,表象化以前の原初的な心的内容物です。
- α要素:意味のある,表象化された(言語化された)思考
- α機能:β要素を意味のある思考(α要素)に変換する心の働きです。
そして,「考えすぎ」と言われる人のぐるぐる思考は,α機能の部分的な不全状態と言えるでしょう。
つまり,「ぐるぐる思考🌀」は
- 感覚や感情は多少なりとも形になっていて,言語化されてもいる(完全なβ要素ではない)
- しかし,それが十分に消化・統合されていない
- 結果として,思考が建設的に精緻化されず,同じパターンを繰り返してしまう
こうした状態は,ビオンの「負の能力」(negative capability)の不足とも関連しています。
ビオンの「負の能力」とは📝
ビオンはキーツの言葉を借りて「負の能力」(negative capability)
- 答えの出ない状況や不確実さ,不思議さの中にいて事態に耐えうる「耐える力」
- 性急に証明や理由を求めずに,不確実さや懐疑の中にいることができる能力
- 不可解な物事,問題に直面したとき,簡単に解決したり安易に納得したりしない能力
の重要性を強調しました。ぐるぐる思考🌀に陥りやすい人は,この能力が弱く,不確実性(答えのない状態)に耐えられず,性急に結論を求めてしまいます。
✅「負の能力」を高めるための実践
- 不確かさへの耐性を養う: すぐに答えを求めず,問いの中にとどまる
- 「知らない」状態を受け入れる: 全てを理解し,コントロールしようとする衝動を手放す
- 開かれた姿勢で観察する: 先入観なしに状況を見つめる練習をする
まとめ:真の「考える」へ
「考えすぎ」と言われる人の多くは,実は「考え方」に偏りがあるのであって,考えること自体が問題なのではありません。対象関係論やビオンの知見を取り入れることで,私たちはα機能を強化し,負の能力を高め,より建設的な思考プロセスを獲得することができます。
重要なのは,思考をただ減らすことではなく,思考の質を高め,真に「考える主体」として自分の心と向き合うことなのです。
