つらい記憶の対処法ーー言語化の力

記憶というのは取り出すたびに代わるということを今回は少し紹介してみましょう。

つらい記憶を思い出すのはなぜ

つらい記憶に悩まされている人,その記憶が視覚的映像となってふとした瞬間に再生されてつらい思いをするフラッシュバックに悩まされている方もいらっしゃると思います。

どうしてつらい記憶をわざわざ人は思い出すのか。それは,つらい記憶を思い出すことで似たような状況が起きた時に,今度はその状況をうまく回避するために,その状況を覚えておかなければならないと脳が動くからです。人は生存本能として,美味しいものがあった場所よりも,命の危険があった場所のことをよく記憶しておくのです。食べ物があるところさえ覚えておけば,それが格別においしくなくても人は生き延びることができますが,ライオンやトラに襲われた場所を覚えていなければ,それは死に直結してしまいます。
ですから,かつては危険な目にあった状況,危険なものはしっかりと記憶にとどめておく必要があったのです。ところが,そこまで命に係わる危険があちこちに散乱している状況ではない現代においては,むしろこのつらい記憶こそが私たちを苦しめることがあります。

つらい記憶にはふた?

思い出したくないつらい記憶がやたらと頭に浮かんできてつらい。そんなときに私たちはどうしたらよいのでしょうか。どんなに頭で「そんなに怖がらなくったって,もう二度とあんなことは起こらない」「少なくともそんなに頻繁に起きることはない」と自分に言い聞かせても,なかなかその記憶が頭に戻ってくるのを止めることはできません。

そんな時,私たちは「つらい記憶にはふたをしてしまおう」「閉じ込めて忘れてしまおう!」と考えるものです。しかし,実は逆なのです。つらい記憶というのは忘れようとすればするほど,より鮮明になってしまうのです。そして,頻繁にその記憶が頭に浮かんでくることになってしまいます。

つらい記憶は風に当てて冷ます

ではどうすればよいのか,それは逆なのです。誰かに話しましょう。話して,空気にさらすこと,風にあてることでその記憶は徐々に和らぎ,まさに風化してくるものなのです。思い出すとつらいから嫌だって思うこともあります。それに,最初は思い出すことで,より記憶が強固になる気がするかもしれませんが。でもそれは違うのです。安心できる安全な環境のなかで何度もその記憶を取り出して,言葉にしていくうちに,映像でしかなかった痛々しい記憶が少し形を変えてきます。言葉にすることで,耐えられなかったその激しい記憶が,熱すぎて触れなかったその記憶の温度が少しずつ下がってきて,手で持っても大丈夫なくらいの温度になってきます。

そうすることで,自分の心の中の引き出しに仕舞い込むことができるようになります。そしてちゃんと引き出しを閉めて,必要であればカギをかけてあげる,そうすれば思いもしないときに突然その記憶が大きな波が私たちを飲み込んでしまうようなこと,激しい突風が私たちを吹き飛ばしてしまうような怖いことにはならなくなります。