分析的心理療法における投射スクリーンの信頼性の担保
分析的心理療法のツール
分析的心理療法は自分の心をツールにして行う仕事なので,自分の心の動き方を理解しておかなければならないし,極力健康であることが大事だと日頃から考えている。自分の心がツールであるというのは,精神分析的な心理療法は,治療者や患者の関係性においてクライエントから投げ込まれた情動を自分の中で吟味し精査することを必要とするということである。
患者の無意識の理解
分析的心理療法の臨床論文には「~と感じられた」「~と考えられた」という表現が頻発することからも,分析的心理療法では治療者の主観を重要視している。それ故に,投げ込まれた情動を,自分のパーソナルな問題が過剰に反映されたものと識別することが肝要であり,さらに投げ込まれた情動どんなものかを適切に判断する必要がある。つまり,逆転移を治療に有効活用するには,患者から投げ込まれた情動の見立てが,自分の自己愛的な妄想の反映であってはならない。
スクリーンの信頼性
では,治療者が自らの主観が,完璧ではないにしても,大きくはクライエントの無意識から離れたものではないだろうという感じをどのように維持するのだろうか。つまり,患者の情動が投影される,治療者の投射スクリーンがそこそこ適切なものを映しているという,治療者自身の自らのスクリーンへの信頼性はどこから生まれるのだろうか。
たとえば,クライエントに尋ねて,その回答によって,こちらの主観が適切だったか,見当はずれなものだったかが明らかなこともある。たとえ,それが言葉として意識レベルでは否定されても,その後の連想によって,あながち外れてもいなかったと思うこともある。しかし,まだその情動が無意識下にある場合には,患者に尋ねても無駄である。治療者は,患者が意識的には否定しても,それは「否認されていた」と判断することもある。自分の推測が外れていたのではなく,患者の否認である,と治療者が主張できるのはなぜか。
スーパーヴィジョンとグループスーパーヴィジョンの機能
逆転移の識別,自分の感覚がずれていないか,つまり投射スクリーンに余計なものが映ってしまっていないか,感覚がぶれていないかをチェックする機能を果たすものが,スーパーヴィジョンとグループスーパーヴィジョン(以下,SV,GSV)であろう。SVやGSVは提示されたケースの検討は当然であるが,それよりも重要なSSV,GSVの機能は,実は患者の情動を映し込むこちらのスクリーンのメンテナンス,調整ではなかろうか。
当然,SVやGSVで発表できるのは,実践している心理療法の一部であり,すべてのケースのスーパーヴァイズを受け,検討して貰えるわけではない。しかし,ひとつのケースを素材としてスーパーヴァイズを受けることは,その患者の心的世界の理解とともに,逆転移の整理を通して,心理療法のツール,治療者の投影スクリーンのチェック,メンテナンスとなるのだろう。また,GSVにおいては,発表者のケースを聴きながら,その場でのGSV参加者の反応やコメントと,自分の心に湧きおこる反応や思いを比較検討することで,自分の感覚がそこまで的外れな者でないことをチェックしているのであろう。なぜ自分が心理療法を継続できているのか?それはひとえに,絶え間ないSV,GSVによって,自分のスクリーンの信頼性,健康性を常にチェックしておくこと,その体験のおかげなのだろう。
追記:そして,最後になるが常にスクリーンの信頼性を確保できるようにSV,GSVを通してメンテナンスする一方で,そのスクリーンを絶対的なものとせず,常に疑い,毎回のセッションで吟味し治す作業も欠かせない。