ストレスは乗り越えるべき?|ビオンの理論から考える,心が楽になるヒント

「このストレスを乗り越えなければ成長できない」「つらいけど,ここで踏ん張るべきだ」…私たちは日常生活で,こんなふうに感じることがよくあります。でも,一方で「これはもう無理」「逃げ出したい」と思う瞬間もあるはずです。

そこで大切なのは,「すべてのストレスを乗り越える必要はない」ということ。成長につながるストレスもあれば,心や体にダメージを与えるストレスもあります。精神分析家のウィルフレッド・ビオンは,不安やストレスをどう処理し,どう成長につなげていくかを理論的に説明しました。今回はビオンの「思考の理論」と「コンテイニング」の考え方をもとに,乗り越えるべきストレス逃げてもいいストレスについて,わかりやすく解説します。

ビオンの「思考の理論」ーー ストレスが「考える力」を育てる?

ビオンは「人間には最初から考える力があるわけではない」と考えました。

私たちがストレスを感じるとき,最初に心に生まれるのは「漠然とした不安」や「モヤモヤ感」です。

  • なんとなくイライラする
  • 理由はわからないけど,不安を感じる
  • どうしていいかわからず,頭が真っ白になる

こうした感覚や感情をビオンは「β要素」と呼びました。

▶️ 「β要素」は未消化の感情,まだ言葉や意味が与えられていない生の感覚,感情

たとえば,「怖い」「不安だ」と感じるけれど,厳密にはそれはまだ言葉にすらなっておらず,それが何に対する不安なのか,どうしたらよいのかがわからない状態です。

そこで人は,β要素を処理して「意味」を与えるために,思考装置(α機能)を働かせます。

  • 「このもやもやは不安なんだ,この不安は新しい環境への緊張感だ」と理解する
  • 「イライラするのは,疲れているからかもしれない」と気づく

このようにして,β要素を整理して言葉にすることで,β要素は,「考えることのできない不安」は「考えられる不安」(α要素,思考)へと変わります。

▶️ 「α要素」は β要素が思考化されたもの

「うまく処理できれば」ストレスは成長につながる

ビオンは,一時的な不安やストレスであれば,正常にα機能が働き,成長につながると考えました。

  • 仕事でミスをした → 反省して次に活かせた
  • 初めての環境 → 最初は不安だったけど,慣れて自信がついた

つまり,適度なストレスであれば,処理して意味をつけることで「学び」や「適応力」になります

「処理しきれないストレス」はパンクしてしまう

しかし,β要素が多すぎたり,強すぎたりすると,α機能が追いつかなくなります。

  • 仕事のプレッシャーが限界を超えている
  • 人間関係でのトラブルが続いている
  • 体調が悪いのに無理をしている

こうなると,不安や恐怖が処理できなくなり,混乱や過剰な防衛反応(怒り,回避,引きこもりなど)が起こります。この場合は,無理に立ち向かうよりも,「一度距離をとる」「逃げる」ことが必要です。

「コンテイニング」— 受け止めて整理する力

ビオンは「コンテイニング(受容)」という考え方も提示しています。

たとえば,赤ちゃんが「怖い!」と泣いたときに,母親が「大丈夫だよ」と抱きしめると,赤ちゃんは安心します。

  • 母親は,赤ちゃんが抱えきれず,外に排出した不安を受け止める(コンテイニング)
  • 赤ちゃんは,母親が「大丈夫だよ」と,その不安を,赤ちゃんが抱えられる状態にして戻します。赤ちゃんはよく分からなかった怖さを受け止めることができるようになる

このように,赤ん坊は不安やストレスを「受け止めてくれる存在」がいることで,徐々に自分でもその能力を取り入れて,自分で不安を処理できる力を獲得するようになります。

「逃げること」も成長の一部

ストレスを「乗り越えるべきもの」と「逃げてもいいもの」に分けて考えることが大切です。

  • 処理できるストレス → 挑戦し,乗り越えることで成長につながる
  • 処理しきれないストレス → 撤退して(逃げて)心を守ることが必要

「逃げるのは負け」と思いがちですが,むしろ「自分を守るために逃げる」というのは大切なスキルです。

「これならいける」と思ったらチャレンジする
「これは無理だ」と感じたら撤退する

この判断ができることこそ,本当の「成長」と言えるかもしれません。

自分の限界を知り,上手に休息する方法精神分析的な自己ケア

きついと感じたとき,ただ我慢を続けるのではなく,効果的な休息を取り入れることも大切です。

ビオンは「reverie(夢想)」という概念を提唱しました。これは母親が赤ちゃんの情緒を共感的に受け止め,消化して返す心の状態を指します。大人になっても,私たちは自分自身の「reverie」の状態を作り出すことで,心の回復を促すことができます。

  • 沈思黙考の時間🌿: 静かに自分の感情を感じ,考える時間を持つ
  • 創造的な活動🌿: 芸術,音楽,書くことなどを通じて感情を表現する
  • 対話🌿: 信頼できる人との対話を通じて,自分の感情を言語化する

無理せず,自分に優しく,ストレスと向き合っていきましょう。
時には逃げることも,自分を守るために必要な選択なのです。

ストレスを感じているときに,このまま耐えるべきか,撤退すべきかという同じテーマについて,「いまがきついのは,新たな挑戦の証拠?」という記事もあるので,ご参考になさってください。