「この仕事向いてないんじゃない?」——心が折れる言葉と,仕事選びの本音

最近の調査によると,社会人一年目・二年目の若者たちが「やる気を奪われる」と感じる言葉の第一位は,「この仕事向いてないんじゃない?」なのだそうです(ソニー生命保険調べ)。

言われてみれば,この一言にはじわじわと効いてくるダメージがあります。

単なる評価を超えて,「ここにはあなたの居場所がない」「誰からも認められないかもしれないよ」と突きつけられるような感覚——それが,今の若い世代にとっては特に大きな痛手となるようです。

働く理由が「生きるため」から「承認されるため」へ🔍

斎藤環著の『承認をめぐる病』によると,現代の若者は「食べるため」よりも「承認されるため」に働いていると言います。つまり,就職とは単に収入を得る手段ではなく,自分の存在を他者に認めてもらうための手段であるということです。

だからこそ,「向いてないんじゃない?」というセリフは,職業的な適性に対する言及以上の意味をもってしまいます。それは「ここにはあなたを肯定してくれる人はいないかもしれない」という,居場所の否定につながってしまうのです。

向いている仕事 vs 好きな仕事:どう選ぶ?🧭

私自身,心理臨床という仕事をしていて,嫌いではないので「好き」なのかもしれませんが,少なくとも「好き」がこの仕事を選んだ理由ではないように思います。しかも,「向いているか?」と問われると,正直,自信はありません。「本当はもっと適した仕事があるのでは?」という思いが,ふとよぎることもあります。

こうした問いに対して,鈴木祐氏は著書『科学的な適職』の中で,「“好き”を基準に仕事を選ばない方がいい」と述べています。その理由は,「好き」という気持ちは理想を肥大させ,現実とのギャップを生みやすいからです。また,どんなに好きな仕事でも,嫌な部分やストレスは必ずあるもの。

同様の意見を,以前YouTubeで拝見した養老孟司先生の講演(こちら)でも耳にしました。「好き」だからこそ期待してしまい,期待が裏切られたときに失望も大きくなるという話が印象に残っています。

✅ 「好きな仕事」を選ぶメリット・デメリット

では,「好き」を軸に仕事を選ぶことには,どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?以下に整理してみました。

🌟 好きな仕事を選ぶメリット

  • モチベーションが湧きやすい:好きな分野だからこそ,自然と学び続けられる。
  • 自己実現につながる:仕事が自分の価値観や興味と一致していると,満足度が高まる。
  • 継続しやすい:困難なことがあっても,「好き」という気持ちが支えになることがある。

⚠️ 好きな仕事を選ぶデメリット

  • 理想が高くなりがち:理想と現実のギャップに苦しむ可能性がある。
  • 冷静な判断を欠きやすい:「好き」だからといって職場環境や待遇を軽視してしまうことも。
  • 仕事がつらくなることもある:好きだった分野が,「業務」に変わることで嫌いになる可能性も。

結局,何を基準に選べばいいのか🕊️

「向いている仕事」か「好きな仕事」か。どちらか一方を選べという問いには,明確な答えはありません。
でも,どちらにしても大事なのは,自分の気持ちや状態を丁寧に見つめ直しながら,その都度,軌道修正していくことなのかもしれません。

もし今,「この仕事,向いてないかも」と感じているとしたら,それは「ダメな自分」の証ではなく,「次の一歩をどうするか」を考えるための貴重なサインかもしれません。

おすすめ本

『科学的な適職』鈴木祐著

Amazonでの紹介分には,「科学的根拠(エビデンス)に基づき、「『キャリア選択』という正解のない悩みに答えを出す方法」を具体的に解説します。」とありました。
職を選ぶ際のポイントとして,重視しなくてよいものや,幸福度に寄与する仕事選びの条件,逆に幸福度を下げやすい仕事の条件など,豊富な先行研究をベースとして読みやすく紹介されています。仕事選びに大切なことを知りたいあなたにお勧めの本です。

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