「情報生産者になる」上野千鶴子著 覚書

社会学者の上野千鶴子氏が教育者として多くのゼミ生に指導してきた経験から,広く情報の発信者になるために書かれた本で,いかにして社会科学の研究論文を書き上げるかの指南書である。
「論文の書き方」のプロセス(問いを立て,研究計画書を作り,対象と方法を選択,情報を収集し,分析して論文を書き,読者に届け,果ては口頭発表にいたるまで)について丁寧に説明されている。質的研究法についてはかなり詳しい。卒論,修論で調査研究論文を書く学生には必携の書である。
ただ,私としては,出だしのそもそも研究とは何なのかというあたりが,最近ことさら「書く」ということに関心のある私の心に届いたので,その覚書として,少し書いてみた。

研究とは

まだ誰も解いたことのない問いを立て,証拠を集め,論理を組み立てて,答えを示し,相手を説得するプロセスであり,言語情報をインプット,言語情報を生産物としてアウトプット(伝わってなんぼ,コミュニケーションである)する情報処理(加工)過程のことである。・・・アウトプットは誤解の余地のない明晰な表現で,ゆるぎない論理性の下で根拠を示して,自分の主張で相手を説得する技術が必要である。

情報とは

違和感,こだわり,疑問,引っ掛かりと言ったノイズから生まれる。ノイズを発生させる(情報の生産性を高める)には自明性(当たり前の世界)の領域を縮小し,疎遠な領域を縮小し,情報の発生する境界領域,グレーゾーンの拡大が必要になる。つまり,情報とはシステム同士の境界に生まれる。

オリジナリティとは

既にある情報の集合に対する距離のことで,そうした問いをたてるには,それまでどんな問いが立てられ,どんな答えが出されたかという知識を知っていること,教養が必要がある。

文章教育とは

感じたことをありのままに書くのではなく,「考えたことを,データをもとに,論拠を示し,他人に伝わるように書く」というものであるべき

理論とは,概念とは,

理論とは現実を解釈するための道具であり,概念とは,ある現象を言い表すために創られた用語。
理論が破綻のない精緻な概念装置からできあがったとき,それを理論体系という。

ちなみに

マルクスは女性が私的領域で行う家事を「労働」と概念化しなかったが,その後の人々が「労働」概念を拡張して再定義して「家事労働」という概念が生まれた。家事労働とは,(生命の)再生産活動の内「第三者に移転可能な行為」と定義される。
(マルクスは,生殖に「他者の再生産」という定義を与えた。)

感想

・・・分かっていたけれど,分かっていなかったことが,整理された気がした。オリジナリティを発揮するには,教養が必要,これも博識な人に出会うと強く実感するところであるし,「考えたことを,データをもとに,論拠を示し,相手に分かるように…」というのは,精神分析の症例研究でも同じである。

インプットとアウトプット…まずはインプットを「覚書」という形でアウトプットしてみた。まだ「写しただけ」のような気もするが,何事も初めてみることが大事!